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大阪高等裁判所 昭和59年(ラ)473号 決定

抗告人

高千穂鉄工株式会社

右代表者

鶴岡徳子

右代理人

朝山善成

相手方

石芝サービス株式会社破産管財人

笠井盛雄

第三債務者

株式会社クラレ

右代表者

上野他一

右当事者間の大阪地方裁判所昭和五九年(ヨ)第五三一六号債権仮処分(処分禁止)申請事件について、同裁判所が昭和五九年一二月一八日になした決定に対し、抗告人代理人より抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

本件を大阪地方裁判所に差戻す。

理由

一抗告人の求めた裁判

主文同旨

二抗告の理由

別紙(一)・(二)記載のとおり

三当裁判所の判断

1本件仮処分申請は、原決定の説示するとおり、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を有すると主張する抗告人(仮処分申請人)が物上代位権による転売代金債権の差押に必要な担保権の存在を証する文書を有していないため、すでに相手方(仮処分被申請人)及び第三債務者を被告として別除権確認等の本案訴訟を提起しているものの、その勝訴判決が確定し、物上代位権により差押を実行する以前に相手方によつて転売代金を取立てられ、あるいはその債権を他に譲渡されるなどすれば、転売代金債権が消滅し、ひいては抗告人の有する先取特権自体が消滅してしまうとして、先取特権に基づく物上代位権を保全するため、転売代金債権の処分禁止を求める本件仮処分申請に及んだものである。

2ところで、民法第三〇四条第一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには、消滅前に目的債権の差押を要するとしている趣旨は、先取特権者のする右差押によつて、物上代位の対象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあると解すべきである(最高裁判所昭和五九年二月二日第一小法廷判決、民集三八巻三号四三一頁参照)。従つて、先取特権者が自ら目的債権を差押えることが物上代位権行使の要件というべきである。

しかしながら、物上代位権の行使とは異り、その行使の前提として先取特権者が目的債権を差押えるに当り、民事執行法第一九三条第一項所定の担保権の存在を証する文書の不備のため、直ちに差押が不可能なときには、右文書を完備した上での将来の差押を保全するため、先取特権(又はそれに基づく物上代位権)を被保全権利とする係争物に関する現状維持の仮処分が許されるものと解するのが相当である。

先取特権(又はそれに基づく物上代位権)は、それ自体債務者に対し、目的債権の取立あるいは譲渡等の処分の禁止を求める権能を有しないとしても、係争物に関する現状維持の仮処分の内容は、目的物の現状不変更という消極的内容をもつものである限り、権利の将来の実現を確保するに必要な範囲において許されるのであつて、被保全権利が処分禁止の権能がないことから、直ちに処分禁止の仮処分が許されないということはできない。

3よつて、右と判断を異にする原決定は失当であつて、本件抗告は理由があるから、原決定を取消すべく、抗告人の動産先取特権の存否等について何らの判断を示していない本件においては、さらにこの点の審理を尽さしめるため本件を原裁判所に差戻すのを相当と認め、主文のとおり決定する。

(小林定人 坂上弘 小林茂雄)

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